柳蓮二の彼女の幼馴染は幸村精市(ライバル)だと言うことを忘れていた話

「すまない。土曜日のデートだが赤也の補習を手伝うことになり行けなくなった」

眉を下げ困ったように言う蓮二に私が返せる言葉は決まっている。

「分かった!補習の手伝いがんばってね!」

ニコニコと笑顔で、ガッツポーズも一緒に作る。

物分かりのいい彼女を演じる私は最高に良い女。

だってほら、蓮二もさっきの困った顔から、安心したように顔を緩めて「すまない。この埋め合わせは必ずする」って。

「そしたら埋め合わせどうしようかな〜。近くの遊園地かな、あ、都内にあるテーマパークでも良いな〜」
「あぁ、好きな場所を考えておいてくれ。この柳蓮二、どこでも付き合おう」
「おっ、言ったな〜!」

蓮二の腕を掴み「そしたら海外のテーマパークもいいなぁ」って冗談半分で言えば「……お前が言うと洒落にならん」って言われて。

え、冗談なのに酷くない!?って、2人で笑い合う。

あぁ、今わたしたちは最高に幸せそうなカップルだろう。
腕を組んでケタケタ笑って。
身長が高くて知的な彼氏と、少し騒がしい彼女。

側から見れば順調そうなカップル。


だけど、それは私の我慢で成り立っている。


ねぇ、今度の土曜日のデートも埋め合わせでするものだったよね?
部活の練習試合が急に入って前回のデートがキャンセルになったから、今度の土曜日デートしようって話になったんだよね?

蓮二が部活を、テニス第一で考えていることは分かるしそれは承諾もした、でも。

一個下の後輩が勉強出来なくて、その補習のせいでデートがキャンセルになるってどういうこと?

って、本当は、蓮二に詰め寄りたい。

すごく楽しみにしていたのに!
後輩の補習じゃなくて私を優先してよ!って言いたい。


でも、そんなこと言ったらきっと蓮二は面倒くさいって思って別れちゃうだろうから。


だから、私は物分かりの最高に良い女を演じるけど。

最高に良い女だからといって、幸せとは限らない──











「はーーーーーーー」
「うわ、何そのデカいため息。幸せが逃げるよ」

もう逃げてるよ。

って、思いつつ目の前の男を見れば。

「うわ、本当に何?その顔」

引き気味に言う幼馴染の精市は相変わらず私だけに容赦がなく。

「蓮二とのデートがキャンセルになった」
「あー」
「部長ならなんとかしてよ」
「仕方ないだろ。赤也の勉強を見るのは柳になっているんだから」

だーかーらー!
それを部長権限でどうにかならないのっ!?っって言いたくなるのをグッと抑える。

精市に言っても無駄なことは分かっているし、最終的には、シャーペンをポキッと折って「俺に指図?随分偉くなったね」と言うに決まっている。

「何か、失礼なこと考えていない?」
「……別に」
「へぇ」

じっ、と見つめられていたたまれなくて視線を外す。

「最終日だったのになぁ」
「何が?」
「行くはずだった写真展」

美しい風景を写真に収めた展示会だ。
ネットで検索して、その美しさに息を呑んで。日本の美しさ、大自然の力強さ、今にも音が聞こえてきそうな迫力。
スマフォ越しで感動したのなら、実際に見たらどうなるんだろう!そう思って気がつけばチケットを2枚買っていた。

1枚で良かったじゃん!!って思ったけど後の祭りで。

もう1枚、誰誘う?ってなったら、それはやっぱり蓮二しかいなくて。

「柳はその日が最終日だって知ってるの?」
「知らない」

知らないし、写真展に行くことも知らない。
私が勝手に動いたことだから蓮二は知らない。

「ふーん、なら俺と行く?」
「精市と?」
「そう。俺も写真展興味あるんだよね」

って言われて、それもありだな。と思って「じゃあ一緒に行こうか」って軽いノリで約束をした。

「当日、楽しみだね」

爽やかに笑う精市は本当にいい奴で。
でも、『当日、楽しみだな』と言ってほしかったのは違う人物で、違う声で聞きたくて。

精市には申し訳ないけど、少しだけ気持ちが落ち込んだ──




落ち込んだけど、やっぱり当日は楽しくて。

「これ、すごくない?」
「俺も思った。お前こういうの好きだよな」
「うん、好き」

"すごくない?"って、言ったのは「凄いな」と返しやすいから。「これ、好き」って言っても友達からは「うん!いいね!」って返されることが多かったから、返しやすい言葉を選ぶ癖がついたのに。

精市は私の"好き"に気が付いてくれた。

流石幼馴染。

「この写真家の写真、全部お前好みだよな」

ここで疑問系で聞いて来ないところもすごい。

そうなのだ。
さきほどから心惹かれる写真は全部同じ人が撮っていて。

「そんなに私分かりやすいかな」
「とっても」
「そうなんだ。何か恥ずかしいな」
「それがお前の良いところで、俺が嫉妬するところだよ」
「嫉妬?」

そう聞き返したのに精市は「俺はこれが好きだな」って、一枚の写真を見つめて。

「あぁ、確かに精市好きそう。この色合いとか光の加減とか」
「そうそう、しかもこういうのを絵で表現するのって難しいんだ」
「でも精市なら描けるよ」

本心の言葉だった。

精市だったら出来る。
幼い頃からテニスだって絵だって人一倍がんばってきて。
病気したときだって。
辛いながら、心折れずにリハビリをし続けたのだ。

私はそんな精市を近くで見てきている。

だから本心から言える。

精市なら出来るって。

でも、精市は私の言葉を聞いて一瞬固まった。
そして、何か吹っ切れたような顔をして。

「……俺さ、お前のそういうところ」
「精市、彼女のデートに付き合わせてしまってすまない」

ひゅっ、と息が止まった。

この声、この話し方、もしかして。

「……柳、早かったね。俺としてはもう少し遅くてもよかったんだけどね」
「かなり急いだからな……俺は早く着いて良かったと心の底から思っている」
「ふふ、焦る柳久しぶりに見たかも」
「焦りもするだろう、あんな連絡を寄越されたら」

珍しく、はぁとため息を吐く蓮二は疲れているようで。

「柳、あんまり俺の大切な幼馴染を蔑ろにするなよ」
「あぁ、もうこんなことが起きないよう誓おう」
「うん、じゃあ俺は先帰るよ」

って、精市は手を上げて帰ろうとして。
そのときようやく「え!?なんで帰るの!?」って、状況を把握出来ていない私は思わず声を上げる。

「精市も一緒に」
観ようよ。

と、言おうとしたら「ごめんな」って、あの精市が謝った。

何で、謝るの?

それが何だか辛くて、背を向けた精市に、待って、って声を掛けようとしたら、肩を掴まれた。

「れ、んじ?」
「すまないが、精市の元には行かせてやれない」
「なんで?」
「俺が嫌だと思ったからだ」

嫌?
嫌って何が?
しかも何で蓮二がそんな簡単に嫌とか言うの?私はずっと、テニス部のことや赤也くんのことで嫌なんか言えなかったのに。

「……っ、私だって、嫌なんだけど」
「おい?」
「っ、離して!」

バッ、と蓮二の手を振り払う。

そんなことをされると思ってなかった蓮二の目は驚いたように開いて。そのあと傷付いたような顔をして。

「っ、」

その表情に私は動揺したけど、蓮二から目を背けて精市の後を追う。

写真展の外に出て、周りを見渡したけど精市の姿はどこにもなくて。

今日、私の我儘に付き合ってくれたからお昼は私の奢りね!って約束したのに。

精市が一緒に来てくれたから寂しくなかった。精市のお陰で楽しい時間を過ごせた。

お礼だって言えていないのに。

それなのに姿が見えなくてなんだか泣きそうになったとき「…おい、」と私の後を追ってきたのだろう。私の名前を蓮二が呼んだ。

「精市ならもう」
「分かってる」

帰ったことなんて、そんなこと分かっている。

でも、何だか無性に悲しい気持ちになるのだ。

「今日、俺は来ない方が良かったか?」
「え?」

そう言えば、なんで蓮二は写真展に来たのだろうか。
私は言っていないのに。

「精市に教えてもらった。それと、チケットも預かった」
「え!?」

だとしたら、今日の精市のチケットはもしかして自分で。

「精市から連絡を貰って、赤也の勉強を急いで終わらせてきたのだが」

蓮二は一瞬だけ顔を伏せて。

「お前は精市と一緒の方が良かったか?」

そんなことない!!
私は今日蓮二とのデートを楽しみにしてて!でも。

「行けないって言ったじゃん……」
「それは、すまなかった」
「……っ、私、今日蓮二とここに来るのが楽しみで」
「あぁ」
「私の好きなものとか、知ってほしくて、蓮二の好きなこととか、たくさん知れたらいいな、ってそう思って」

鼻がツンとして、落ち着くためにゆるゆると息を吐いて。

「精市はね、私の好きを知ってるの。だから今日も楽しかった」

それは本心だ。
精市は何やかんやで優しいから。
でも。

「でも、私が知りたいって思うのは、蓮二なの。蓮二のこと、もっと知りたいのに!蓮二はいつもいつもテニスだし赤也くんだし!そりゃあテニス部が第一なのは分かってるけど!でも!」

言いたくなかった。
テニスのことも赤也くんのことも。だってそれらは蓮二にとって大切なものだと、私は知っているから。

「っ、すまなかった……」
「ううん。ちがうの、これは私の我儘で」
「それこそ違うな。俺はお前の嫌がることはしたくない。だからこれからはもっとお前のことを教えてくれ」
「れ、んじ」

眉を下げて困った顔をした蓮二が「俺はどうやらお前に甘えすぎていたようだな」って言って。

蓮二の指先が私の指に触れて。

「改めて俺と今日デートしてくれないか?」






蓮二のお誘いに頷いて改めてデートを楽しんで。

日が落ちて手を繋いで帰る途中、そういえば、とひとつ私は思い出す。

「そういえば、精市からなんて連絡が来てたの?」

赤也くんの勉強を見るはずだった蓮二が精市いわく慌てて現れたのだ。

一体どんな内容だったのか。

興味本位で聞いたけど蓮二は渋い顔をして「……秘密だ」と一言。

「えー!」
「……今回のことで俺の予測は確信となった」
「予想?」
「奪われないために俺も身を引き締めよう」

目が合った瞳は強い意志のようなものを感じて。
でも蓮二が言ってることが何なのか分からなくて"奪われないため"ってテニスの五感のことかな?って、私は首を傾げたのだった。

























おまけ



【柳へ

今日来なかったら五感以外にも柳の大切なもの奪わせてもらうね

精市】




おわり


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